穂積弁護士が労働組合(JMITU日本アイビーエム支部)の代理人を務める日本IBM(AI賃金査定)不当労働行為事件について、2024年8月1日、東京都労働委員会で和解が成立しました。
この事件は、日本IBMが賃金査定に自社開発のAI(ワトソン)を導入したことを受け、労働組合が、AI(ワトソン)の評価項目やアウトプット(上司への提案内容)の開示などを求めて、団体交渉を要求したことに端を発します。日本IBMが開示を拒否したので、労働組合は、同社の対応が労働組合法7条の禁じる不当労働行為(不誠実交渉、支配介入)に当たるとして、東京都労働委員会に救済を申し立てました。この事件は、AIを活用した人事管理に関する初の労使紛争として広く報道されました(https://hozumi-shinyuri.jp/archives/280)。
社会の様々な領域でAIの利用が進む一方、社会に残る差別(人種、性別、国籍etc.)をAIが学習して再現したり、判断過程がブラックボックス化して理解不能に陥るなどの弊害が指摘されています。そのため、企業が人事管理にAIを活用する場合には、公正性と透明性の確保が課題となります。しかし、日本国内で法規制は進んでおらず、個々の労働者の努力には限界があります。
今回の和解では、AIの評価項目や提案内容を会社が労働組合に説明することが労使間で合意されました。これは労働組合が主体的にAIの利用を監視し、企業に応答責任を課すことで、透明性を確保し、不公正な利用を防止して、労働者の権利と労働条件を守るという労使合意のモデルを提供するものです。人事管理におけるAI活用(HRテック)が広がりを見せる中、この取組の成果が他の職場にも波及して労働者の権利の向上に繋がることが期待されます。
この和解は、朝日新聞、日経新聞、弁護士ドットコムニュース、日経クロステック、日経ビジネスなどで報じられています。